はじめからおわりまで

はじめからそうだった。
見たことはなかったから、見たこともないものばかりだった。
聞いたこともなかったから、聞いたこともないものばかりだった。
嗅いだこともなかったのに、安心する臭いの人がいた。
 
助けてくれ。
全力で伝えた。
死にたくない。
懇願した。
俺を生かしてくれと。
 
その人の庇護の元、目に入るものはすべて魅力的だった。
その人の庇護の元、耳に入る音はすべて心地よかった。
その人との絆で、全てがうまくいった。
 
次第にどちらからということもなく、その人に託していたことを、俺が引き受けていった。
食事も、排泄も。次から次へと。
引き受ければ引き受けるほど、視野は広がり、その先まで見えるようになっていった。
 
見えれば見えるほど、何も見えないことが分かる。
聞こえれば聞こえるほど、何も聞こえないことが分かる。
 
助けてくれ。
 
助けてくれ。
 
死にたくない。
 
死にたくない。
 
こだまかしら?
 
いいえ、誰でも。
 
他の人も同じだった。
 
みんなで信頼しあった。
みんなで信託しあった。
みんなが引き受けたことをみんなで共有した。
 
見えないことは、あの人が見ていた。
聞こえないことは、あの人が聞いていた。
あの人の見えないことを見た。
あの人の聞こえないことを聞いた。
 
それはビジネスのようで、
絆だった。